集団間紛争・集団暴力に関する社会心理学のお勧め書籍紹介
集団間紛争・集団暴力に関して,社会心理学領域の日本語の書籍を紹介いたします。
主には,専攻する学生や研究者向けのまとめです。
最初に「1.集団間紛争・集団暴力」に関する本を紹介します。
次に,集団間紛争に関する認知過程として重要となる「2. 偏見・差別・ステレオタイプ」に関する本を取り上げます。
3.では集団に関するものだけではなく,攻撃研究全般に関する「3. 攻撃」の社会心理学の本を紹介します。
最後に,個別トピックや上記で漏れた本を「4.その他」に入れ込んでいます。
1. 集団間紛争・集団暴力
集団間紛争の社会心理学研究を理解する上では,下記がお勧めです。
●縄田健悟『暴力と紛争の"集団心理"』
●バルタル『紛争と平和構築の社会心理学:集団間の葛藤とその解決』
●大渕憲一 (監修)『紛争・暴力・公正の心理学』
●ピンカー『暴力の人類史 上・下』
縄田健悟『暴力と紛争の“集団心理”: いがみ合う世界への社会心理学からのアプローチ』
いきなり自著で恐縮ですが,このテーマなら本書をまずはお読み下さい。
集団間紛争や集団暴力に関して直接的に説明・議論した本が無いからこそ執筆したところでもあります。
詳細な紹介記事はこちら
目次
序章 暴力と紛争の〝集団心理〟――社会心理学の視点から
第Ⅰ部 内集団過程と集団モード
第1章 集団への愛は暴力を生み出すか?
第2章 集団への埋没と暴力――没個性化,暴動
第3章 「空気」が生み出す集団暴力
第4章 賞賛を獲得するための暴力――英雄型集団暴力
第5章 拒否を回避するための暴力――村八分回避型集団暴力
第Ⅱ部 外集団への認知と集団間相互作用過程
第6章 人間はヨソ者をどう見ているのか?――偏見の科学
第7章 「敵」だと認定されるヨソ者――脅威と非人間化
第8章 報復が引き起こす紛争の激化
第Ⅲ部 暴力と紛争の解消を目指して
第9章 どうやって関わり合えばよいのか?――暴力と紛争の解消を目指して
バル・タル『紛争と平和構築の社会心理学:集団間の葛藤とその解決』
どの章も集団間紛争を理解する上では重要なトピックです。
この領域をテーマにしたい卒論生や大学院生の方は通読することをお勧めします。
序章 葛藤・紛争と社会心理学
第1章 豚,スリングショット,およびその他の集団間紛争の基盤
第2章 紛争の知覚
第3章 集団間紛争における感情と感情制御――評価基盤フレームワーク
第4章 紛争の集合的記憶
第5章 アイデンティティと紛争
第6章 イデオロギー葛藤と極化――社会心理学の視点から
第7章 政治的暴力,集団間紛争,民族カテゴリー
第8章 テロリストの心理――個人,集団,組織レベルの分析
第9章 紛争解決における社会心理的障碍
第10章 紛争解決に対する社会心理学的アプローチ
第11章 集団間紛争における交渉と調停
第12章 和解をめぐる主要論点――紛争解決とパワー力動に関する伝統的仮定への挑戦
第13章 平和構築――社会心理学的アプローチ
終 章 クローゼットを開けるために
大渕憲一 (監修)『紛争・暴力・公正の心理学』
この本は,大渕先生に関わる研究者の方々で執筆された本で,紛争関連のトピックが整理されている良書です。
特に下記の章は集団間紛争や集団暴力と関わる内容です。
15章 集団間紛争とその解決および和解(熊谷智博)
16章 集団間葛藤の低減(浅井暢子)
17章 文化間葛藤と価値観(加賀美常美代)
18章 偏見と差別(山本雄大)
19章 ステレオタイプ研究再考(潮村公弘)
21章 非行集団と暴力犯罪(中川知宏)
ピンカー『暴力の人類史(上・下)』
文明化に伴う暴力の時代的な減少を統計的に示しています。
特に心理学で重要なのは下巻です。
社会心理学の攻撃性・暴力性・集団間関係の研究もたくさん紹介されています。
文明論として暴力や紛争を扱い,なおかつその心理過程まで議論する上で示唆に富む本です。
なお『暴力の人類史』の出版後の統計データをフォローしたい場合には,ピンカーが暴力の人類史の後に出版した『21世紀の啓蒙(上・下)』も一緒に読むとよいでしょう。
その他重要文献
その上で,教科書的な知見をアップデートするために,
- スミス & ハスラム(編)『社会心理学・再入門―ブレークスルーを生んだ12の研究』
第7章 ミルグラム服従,第8章ジンバルドー監獄実験,第9章シェリフサマーキャンプ,第10章タジフェル最小条件集団
あたりを一緒に読むとよいでしょう。
また,大渕先生は,上で紹介した本以外にも,紛争の社会心理学研究に関して多くの本を出版されています。まとめて紹介します。
- 大渕憲一 (編)『 紛争と葛藤の心理学―人はなぜ争い、どう和解するのか (セレクション社会心理学)』
-
大渕憲一 (編) 『紛争解決の社会心理学 (現代応用社会心理学講座)』
- 大渕 憲一 (編著)『葛藤と紛争の社会心理学―対立を生きる人間のこころと行動 (シリーズ 21世紀の社会心理学12)』
- 大渕 憲一 (編著)『紛争と和解を考える: 集団の心理と行動 (日本心理学会心理学叢書)』
集団間関係の理論的系譜に関しては下記の本によく整理されています。
- テイラー&モグハッダム 『集団間関係の社会心理学―北米と欧州における理論の系譜と発展』
2. 偏見・差別・ステレオタイプ
集団間紛争の心理過程を理解する上で偏見・差別・ステレオタイプに関する社会的認知研究を外すことはできません。
上瀬由美子『ステレオタイプの社会心理学ー偏見の解消に向けて』
ステレオタイプの社会心理学研究の入門的には,セレクション社会心理学から入りましょう。
北村英哉・唐沢穣 (編著)『偏見や差別はなぜ起こる?: 心理メカニズムの解明と現象の分析』
セレクション社会心理学を読んだら,次はこの本ですね。
- 北村英哉・唐沢穣 (編著)『偏見や差別はなぜ起こる?: 心理メカニズムの解明と現象の分析』
社会心理学の偏見・差別研究者が集まって作った本です。
どのトピックも重要なものです。目次をコピペしました。
第1部 偏見・差別の仕組み――心理学の理論と研究から読み解く
第1章 ステレオタイプと社会的アイデンティティ ●大江朋子
第2章 公正とシステム正当化 ●村山 綾
第3章 偏見・差別をめぐる政治性―象徴的偏見とイデオロギー ●唐沢 穣
第4章 集団間情動とその淵源 ●北村英哉
第5章 偏見の低減と解消 ●浅井暢子
第2部 偏見・差別の実態と解析――さまざまな集団・社会的カテゴリーに関する偏見と差別
第6章 人種・民族 ●高 史明
第7章 移民 ●塚本早織
第8章 障害 ●栗田季佳
第9章 ジェンダー ●沼崎 誠
第10章 セクシュアリティ ●上瀬由美子
第11章 リスク・原発 ●樋口 収
第12章 高齢者 ●唐沢かおり
第13章 犯罪 ●荒川 歩
その他重要文献
- 高史明『レイシズムを解剖する: 在日コリアンへの偏見とインターネット』
→ 在日コリアンという個別トピックなので,ここでは「その他」に載せましたが,現在の日本のレイシズム/外国人差別の心理プロセスを理解する上では高史明先生のこの本は必読です。
- ジェニファー・エバーハート『無意識のバイアス――人はなぜ人種差別をするのか』
- クレイグ マクガーティ, ラッセル スピアーズ他 『ステレオタイプとは何か』
3.攻撃性・暴力性
集団のものに限らず,人間の暴力性に関しては,社会心理学の攻撃研究を押さえておく必要があるでしょう。
大渕憲一『人を傷つける心ー攻撃性の社会心理学(セレクション社会心理学)』
攻撃研究全般を理解する上で最初に読む本としては,やはりここでもセレクション社会心理学ですね。
あと攻撃性の研究だと上記の大渕先生の紛争関連の本と合わせて,下記の本が挙げられるでしょうか。
- 湯川進太郎『バイオレンス―攻撃と怒りの臨床社会心理学』
- クラーエ『攻撃の心理学』
また,以下の2点は,いわゆる攻撃性の本とも少しズレるのですが,攻撃性に関する重要な社会心理学文献なのでここで挙げます。
ニスベット&コーエン『名誉と暴力:アメリカ南部の文化と心理』
こちらは,アメリカ南部の暴力の話ですが,単なるアメリカローカル文化の話をしているわけではなく,文化と攻撃性の関係性一般を理解する上で最重要文献です。論理だった展開も読みやすい本です。
ミルグラム『服従の心理』
アイヒマン実験とも呼ばれる,有名なミルグラムの『服従の心理』も攻撃・暴力を研究する社会心理学では必読書でしょう。
服従実験に興味をもったら,その後の展開・発展を理解する上でも下記を合わせて読むと良いでしょう。
特に最後の『死のテレビ実験』は個人的にお勧めです。
フランスでのTVクイズ場面を元にミルグラム実験を行ったドキュメンタリー的番組の書籍です。社会心理学者が入って実験しており,学術論文もあります。
また,私の本『暴力と紛争の“集団心理”』の第3章でも服従実験に関して,上記の本を踏まえた最近の展開を整理しているので,こちらもお読み下さい。
4.その他個別トピック
4a.社会的アイデンティティ理論に関する本
社会的アイデンティティ理論の本は,あまり新しい本はありません。
以下の翻訳書が数少ない本です。
あたりは読んでおくとよいでしょう。
- ルパート・ブラウン『グループ・プロセス―集団内行動と集団間行動』
も古くなりましたが今も必読です。
さらに,同じくブラウンの『偏見の社会心理学』も合わせて読みましょう。
4b. テロリズムの心理学
少し個別トピックですが,
- 越智啓太『テロリズムの心理学』
第2章 テロリズム発生における社会心理学的メカニズム (縄田健悟)
第3章 実験社会心理学から見た集団間葛藤 (杉浦仁美)
第4章 集団の光と影 (釘原直樹)
は私を含めて集団間紛争を研究する社会心理学者が書いています。その他の章との関わりも重要です。
また,
- テロリズムを理解する―社会心理学からのアプローチ』 釘原直樹監訳)『
も合わせて読むとよいでしょう。
4c.その他
最後に「その他のその他」ということで関連本を羅列します。
- アロンソン『ザ・ソーシャル・アニマル』
→ 第2章 同調,第6章 人間の攻撃,第7章 偏見 は特に読むのをお勧めします。 - ジョスト『システム正当化理論』
→システム正当化理論の専門書籍です。 - 西田公昭『「信じるこころ」の科学―マインド・コントロールとビリーフ・システムの社会心理学 (セレクション社会心理学)』
→過激化を生じさせる社会・集団過程を理解する上で重要です。 - ハイト『社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学』
→道徳基盤理論 - グリーン『モラル・トライブズ(上・下)』
-
釘原直樹『グループ・ダイナミックス :集団と群集の心理学』
- 大坪庸介『仲直りの理: 進化心理学から見た機能とメカニズム』
以上,取り上げそこねた本もあるかもしれませんが,ひとまず紹介しました。
適宜,追記していきたいと思います。