Nawata, K., Yamaguchi, H., & Aoshima, M. (2020).
Team Implicit Coordination Based on Transactive Memory Systems
Team Performance Management: An International Journal, 26, 375-390.
(対人交流記憶システムに基づくチームの暗黙の協調)
DOI: 10.1108/TPM-03-2020-0024
一枚概要はこちらです。
目次
はじめに
この論文は,論文誌「Team Performance Management」に掲載された論文です。
2020年8月10日付けでオンラインで出ました。
・日本国内3社の216チームを対象に分析
・チーム内で「誰が何を知ってるか」を共有することで"阿吽の呼吸"が実現し,チーム成果が高まる。
・そのためには,日常的によくコミュニケーションを取ることが重要
ということを本論文で示しました。
では,もう少し細かく見ていきましょう。
暗黙の協調と対人交流記憶システム
本論文で扱っているチームの行動・認知は①暗黙の協調と②対人交流記憶システム です。
①暗黙の協調 (implicit coordination)
これはいわゆる阿吽の呼吸(あうんのこきゅう)です。
お互いに言葉がけをしてコミュニケーションを取らずとも,うまくメンバー間で連携がとれた状態のことを指します。
スポーツで言うとノールックパスが分かりやすいでしょう。
お互いに声がけもなく,円滑に連携を取ってパスを繋ぐことができるのです。
企業組織場面では,誰も指示や援助要請を出さなくとも,業務に対して自発的に役割分担をこなしながら,円滑に連携を取って,業務を遂行する
というものになります。
ちなみに,暗黙の協調に関しては,我々の協調迷路課題を用いた実験室実験研究もぜひお読み下さい。
→ 秋保・縄田・池田・山口 (2016) 社会心理学研究
②対人交流記憶システム (トランザクティブ・メモリー・システム;Transactive memory system)
対人交流記憶システム(トランザクティブ・メモリー・システム)とは,ビジネスの世界で「ノウフー共有」と呼ばれるものと概ね同義です。
これは「ノウハウ(Know-how)」に対比されるもので,「Know-who」=「誰が」を知っている状態です。
このような,「チームの中で誰が何を知っているのか」(who-knows-what)が分かったチーム状態が「対人交流記憶システム」(Transactive memory system)と呼ばれます。
誰がどんな専門性や役割を担っているのかを的確に相互理解できていることで,
チームがちょうどジグソーパズルのようにお互いを補完し合いながら
各人の強みを活かし,弱みを助け合うチームにできるのです。
本研究の仮説
本研究では
日常的によくコミュニケーションを取っていると(日常的コミュニケーション)
⬇
お互いに誰が何を知っているかがよく分かるようになる(対人交流記憶システム)
⬇
阿吽の呼吸でチーム連携が取れる(暗黙の協調)
⬇
チーム成果があがる
というプロセスを仮説として立てました。
すなわち
・日常的コミュニケーション → 対人交流記憶システム → 暗黙の協調 → チーム成果
というチームレベルの効果が見られると予測し,これを実際の企業組織のチームで検証していきましょうというのが,この論文で行ったことです。
方法
日本国内の3企業,216チーム,1545名に質問票調査に回答いただきました。
また,チーム成果の指標としてもチームごとの社内評定や目標達成率を用いました。
(ただし,この指標が使えたのは2社分のみです)
以上のデータに基づいて,特にチームレベルのプロセスを見ていく,マルチレベル構造方程式モデリングという統計分析手法を用いて,検討しました。
結果と考察
予測どおり,
日常的コミュニケーション → 対人交流記憶システム → 暗黙の協調 → チーム成果
というチームレベルのプロセスが得られました。
つまり,
①日常的コミュニケーション:日常的によくコミュニケーションを取っているチームでは,
↓
②対人交流記憶システム: 「誰が何を知っているのか」をしっかりと共有できていて,
↓
③暗黙の協調: その結果,コミュニケーションを取らずとも阿吽の呼吸で連携がとれて,
↓
④チーム成果: ひいてはチームのパフォーマンスが高まる
というプロセスが得られました。
この結果は,ある意味で,矛盾しているように思えるかもしれません。
というのも,
「コミュニケーションを取らない暗黙の協調を高めるには,日常のコミュニケーションが重要である」
という結果ですから。
しかしこれは時間軸を考慮に入れれば適切に理解できます。
常日頃には日常的なコミュニケーションをしっかりと取って,チームの認知共有(ここでは"ノウフー")が的確に構築できることによって,
まさにいざ業務にリアルタイムで対応する場面では,コミュニケーションを取らずともチームの「暗黙の協調」行動が実現できるのです。
これを言い換えると,
逆説的ながら常日頃には日常的なコミュニケーションをしっかりと取って,チームの認知共有状態の構築が重要
以上の結果から,
まずは,阿吽の呼吸で連携して活動するためには,誰が何を知っているかを的確に把握し,ジグソーパズルのように相互に補完し合うチーム認知状態を作ることの重要性が示されました。
また,挨拶や雑談を含めて,日常的によくコミュニケーションを取る中で,こうした対人交流記憶システムが構築され,暗黙の協調が実現できるチームができることが示唆されました。
【以下,研究者向け】
●構造方程式モデリングのパス図
●変数の順序も上記のモデルが最も適合度が高いものになっていました。
オマケ:本研究に関わるあれこれ
以下は,本研究に関わる研究小話を少し書きます。
まずこのデータはもう5年以上も前のデータです。ようやく出せました。
…って1年前のGPIR論文の採択時にも似たようなこと言っていましたね。なかなか論文としてのアウトプットまでもっていくのが難しいのですが,もっと出したいところです。
その後,さらに企業チームのデータも蓄積されていて,累計800以上のチームのデータが手元にあります。この統合データの分析結果もアウトプットしていきたいと思っています。
こちらは乞うご期待ということで,また頑張って論文書きます。
それから,チーム研究では,チームを単位に分析したかったりするのですが,その場合,チーム数がなかなか集まらないんです。
それでさえ,学生サンプルと比べて,企業回答はなかなか得にくいのに。。。
例えば,ある企業の100名から回答いただいた10チームのデータとかを得る機会があったりするのですが,分析ユニットが「集団・チーム」のときには,N=10で分析することになるんですね。
「N小さっ!単純集計くらいしかできない!」ってしょっちゅうなっています。
多変量解析をぶん回すことが多い最近の社会心理学・組織心理学研究としては,このデータ数の少なさはなかなかに致命的です。
今回は,もともとは1500人回答データだったところで,チームN=216となりました。
まあまあ,これだけあればまあまあというところでしょうか。
実証研究者は「データ収集と分析が命」なので,データそのものが集めにくいというのも,悩ましいところですね。
特に日本で,企業組織のチーム・集団研究が少ない原因の一つは,このデータの集めにくさの問題は大きいだろうなと思っています。
後は,チーム単位に集約すると相関がやたら強めに出てしまう点も悩みの種で,これも多変量解析に載せにくい原因になっています。
これは別に現在集約の仕方を工夫してなんとかしようとしているところです。
というわけで,また引き続き頑張ります!